自動滴定装置の未来を変えた“断続”滴加制御方式

誕生は、1965年(昭和40年)

1965年(昭和40年)、断続滴加方式による平衡点検出機能を備えた画期的な滴定記録装置RAT-1が完成し全国販売が開始された。
創業者の故平沼千春が、自社製品の開発による独自技術の構築を目指し、1959年(昭和34年)に東京大学生産技術研究所の三宅博士を招聘してから、6年後のことであった。

当時、日本の市場は海外メーカーが制覇

当時は、海外メーカーの滴定装置が世界および日本の市場を制覇しており、国産製品は一社のみ孤軍奮闘していた。
当時の滴定装置はいずれも滴定液を“連続的”に加えるのに対して、RAT-1は滴定液を“断続的”に加えることによって、真の化学反応の平衡点を検出しながら滴定を進めることができるという点を、最大の特長として売り出された。

現在の主流も、当時は苦戦

連続滴加方式の滴定曲線は滑らかな滴定曲線を記録するのに対して、断続滴加方式のRAT-1では階段状の滴定曲線を記録した。この滴定曲線の記録様式は50年経過した現在では主流となっているが、発売当初は、この階段状滴定曲線に対するお客さまの反響は芳しくなく、従来の滑らかな滴定曲線の記録方式に苦戦を強いられた。
しかし、階段状の滴定曲線は、“真の化学反応の平衡点を検出しながら滴定を進めること”の結果であり、それが真の滴定曲線を得ることに繋がっているという点を説明すると、ほとんどのお客さまが納得したのであった。

限界のあった、連続滴加方式

連続滴加方式による自動滴定記録装置では、記録紙の送りモーターとビュレット駆動モーターは同一のもので構成されていた。その理由としては、記録紙の送り量とビュレットの送り量が完全に同期し、尚且つ比例関係を保持してアナログ的に駆動しなければならないからであった。
ビュレットと記録計は機械的に接続されているため、ビュレットの増設は機構的に困難であり、現在のように複数台のビュレットは接続できなかったのである。

RAT-1だから実現できた、うら技・はなれ技

一方、RAT-1は、記録計のモーターとビュレットのモーターを独立させて配置し、モーターに交流同期モーターを採用。さらに、二つのモーターの同期を完全にするために、各モーターを急速に停止させるためにブレーキ回路を組み込んだのである。
当時、パルスモーターなどのない時代に、二つのモーターを同期し、かつ断続駆動する工夫を、設計者の知恵と工夫によって解決したのであった。このような駆動方式が採用できるのも、断続滴加方式を採用しているからであり、ビュレットの送り速度を固定し、断続的にビュレットを駆動できる優れた断続滴加方式の特長でもあった。

未来を変えた一歩

RAT-1の開発に続き、次々に付属装置の開発がおこなわれた。自動サイクラ(12検体用CAT-1)、光度滴定付属装置(PAT-1)、電量滴定付属装置(FAT-1)他、ツインビュレットTB-1(ビュレット2台が一体構造)、ダブルアクションビュレットWB-1(滴定液がエンドレスに送液可能なビュレット)など、当時から豊富な周辺装置を備えていた。さらに、RAT-1の最大の特長を生かした潤滑油の中和価測定付属装置などが製品化され、多くのお客さまの測定の自動化と高精度化に貢献した。
RAT-1は約900台生産されその後RAT-101、RAT-12およびRAT-11に引き継がれた。RAT-11はトランジスタ、オペアンプを使用した改良製品で、約1500台を生産したヒット商品となった。RAT-1の研究成果はTalanta(1966,Vol,13,pp.1253 to 1264)に報告され、また本装置を用いた応用文献が多数発表された。
RAT-1は、その機能をもって、業界の未来を変える製品となったのである。